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Dear my sweet
  • マルスと夢主が交際しています(シーダの存在について作中で一切言及していません)。
  • スマブラの設定を借りて現パロしていると考えながら読むのがいいと思います。
  • マルスの味の好みを捏造しています。
  • ファイター達の住居について、同居とも別居とも取れる表現をしています。

 どこからか流れてくる紅茶の芳醇な香りで、私は少しずつ目を覚ました。
 いつの間に眠っていたんだろう。意識がはっきりしてくるにつれて、ソファのクッションと、自分の体に掛かっている毛布の柔らかい感触を認識する。

 起き上がるのが億劫でごそごそと寝返りを打っていると――自分がお昼ご飯を食べた後緩い眠気に襲われ、微睡んでいたことを思い出した。薄い視界には太陽の光が差している。どうやらまだお昼下がりの時間帯らしい。

 私がゆっくりと身を起こし香りがする方へ目を向けると、愛しい男性ひとであるマルスがダイニングテーブルで紅茶を飲みながら本を読んでいる様子が見えた。彼の視界にも私が身を起こす様子が映ったのか、マルスがこちらを見て穏やかに微笑んだ。

「スミレ。おはよう」
「おはよう……」

 まだ少し重たい瞼を擦りながら彼に挨拶する。

 今日はどちらもお休みの日。
 ファイター同士で交際している私達は、お休みの日にもちろんデートに行くときもある――けれど、こうして片方の部屋にもう片方が遊びに行く日もよくあった。大抵は、一緒にお話ししたり、料理したり、本を読んだり、あと色々。一緒にデートに行くときのマルスも格好良くて好きだけど、お家デートの程よく力が抜けたマルスのことも私は大好きだ。

 今日は、私がマルスの部屋に遊びに来た日だった。私がお昼前にドアをノックして、一緒にハンバーグカレーを作って食べたところまでは良かったけれど……つい食べ過ぎてしまったのか、ソファで横になるつもりがいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

「スミレも紅茶、飲むかい?」
「うん」

 私が半分無意識に返事すると、マルスは本に栞を挟み台所に立った。彼の背中の向こうからお湯が注がれる音がする。彼が棚からティーバッグを取り出しているのを、見るともなしに見ていた。しばらく待っていると、少しずつ温かな紅茶の香りが部屋に満ちてゆく。

「はい、どうぞ」
「ありがとう」

 彼から手渡されたマグカップを受け取ると、淹れたての紅茶の香りが鼻腔をくすぐった。一口飲むと、体の真ん中からぽかぽかと温まっていくのを感じる。マルスはミルクとお砂糖を入れてくれたようで、茶葉の苦さの中にふわりと甘みを感じた。

 私が起き抜けのままソファに座ってぼーっと紅茶を飲んでいると、マルスが自分の隣に座ってきてくれた。ソファにもう一人分の体重が載り、マグカップの中の紅い水面が僅かに揺れる。

 顔を見上げると、愛する人と目が合った。私がその抜けるような青空に見惚れていると、不意に彼が目を細めた。

「……ふふっ」

 マルスが優しく微笑むのを見ると、私もつい嬉しくなり笑ってしまう。

 私の恋人――優しくて勇敢な、マルス王子。
 彼はアリティアという王国の王子だ。『王子』という肩書に違わず、その立ち居振る舞いは優雅で気品があり、誰からも尊敬される人物だった。王族でありながら、傲慢さや驕りの類を一つも見せない。民想いであり、自らの研鑽や使命も忘れない、立派な人だ。

 彼は基本的に人によって態度を変えるような人間ではないけれど、私に対しては他の人より愛情深く接してくれた。気遣いが上手で、私が悩んで落ち込んでいるときも静かに寄り添ってくれる。マルスとお付き合いできる私は、つくづく幸せ者だと思う。

「ごめんね、マルス。せっかくのお休みの日なのに寝ちゃって」
「ううん。昨日の試合で君が頑張っていたの、知っているから」
「……ありがとう、嬉しい」

 マルスが隣に座る私の頭に軽く手を乗せ、微笑んでくれる。それだけで私の心はいっぱいになった。

 普段から彼がこうやって愛情表現をしてくれるのが、私はとても嬉しかった。おかげで、私は彼と付き合っていて『彼は本当はどう思っているのかな』、『彼は本当に私のことが好きなのかな』などと悩んだことがあまりない。
 ――ということを時々直接伝えるのだけど、私の言葉を聞くと彼は決まって恥ずかしそうに笑う――それがまた可愛くて、その顔を見るたび私はいつも胸がいっぱいになるのだ。

「スミレ」
「うん?」
「好き」

 そう言った次の瞬間には彼の顔が近づいてきていて、唇同士が触れた。触れるだけの優しいキス。柔らかかった。紅茶の香りがするけど、私のとは少し違う。マルスは、紅茶を飲むときはストレートが好きなのだ。

「私も」
「ふふ。私も?」

 と、マルスが軽く首を傾げる。『私も』の続きを催促する彼が可愛くて嬉しくなった私は、自分のマグカップをテーブルの上に置くと、彼の方に向き直り首に腕を回して抱きついた。するとマルスも私の背中に手を回して優しく抱き締め返してくれる。

「私も、好き」

 私の言葉を聞いて、マルスが満足そうに笑ったのが顔のすぐ横から聞こえる息づかいで分かった。私の背中を抱き締めている彼の指の力が、ちょっとだけ強くなった。

 マルスとしばらく抱き締めあった後、ふと彼が体を離し、私がソファの端に畳んで置いていた毛布を手に取った。何だろうと思う間もなくその毛布は一気に広がって、私達の体を包んだ。

「わぁ! ――」

 どさっ。
 ソファの上に倒れようとするマルスに腕を引かれ、二人で並んで寝転がる形になった。もちろんこのソファは二人で寝転ぶためのものではないので、どうしても彼と密着しなければならない。ソファから今にも落ちてしまいそうなマルスをぎゅっと抱きしめると、彼の体温と息遣いがすぐ近くに感じられて私も何だかドキドキしてきた。

「マルス……」
「スミレ」

 マルスの体は、意外とごつごつしていて温かい。
 ファイターの人達はマルスの姿を見て、その整った顔立ちを褒める人が多い。マルスの着ている衣装は露出が目立たないのもあると思うし、彼よりも体つきが分かりやすい人が沢山いるから、余計埋もれているのだろう。

 だけどこうしてマルスの体を触ってみると、彼の体は相当に鍛えられていることが分かる。もちろん彼がそれをひけらかすこともないし、日々のトレーニングを実直にこなしているからこそ今の彼があるのだろうけれど。

 何より、そのことを肌で感じられるのは私だけという事実が、私を一層ときめかせてくれるのだ。

「スミレ、今日はこれから何しようか?」
「うーん。一緒にゴロゴロしたい」
「いいね」

 私と彼の体はぴったりと密着しているけど、不思議と心地よい。彼のシャンプーの香りと、遠くから漂うゆるい紅茶の香りが鼻腔をくすぐって、自然と心が落ち着いていく。こうして彼と体温を分け合いながら二人で横になっていると、とても穏やかな気持ちになった。

「マルス、大好き」
「うん。僕も、スミレのこと大好きだよ」

 お互いに愛を囁いてみる――、けれどなんだかこそばゆくて二人でくすくすと笑う。
 愛している人から、同じように愛してもらえている。その幸せを嚙みしめながら、私達はお互いの気持ちを確かめ合うようにもう一度口付けを交わした。

 休日の昼下がり、明るい日差しが私達の幸せを柔く照らす。二人の甘い休日はまだ始まったばかりだ。

2023/10/23