「はーあ、人生なんてフツーでいいんですよ、フツーで」
「同感……」
校舎裏に適当に腰かけ、友人と平凡で適当な会話をしながらコンビニで買った焼きそばパンを頬張る。
予鈴が鳴るまで適当に駄弁って、そのあとは適当に授業を受けて帰る。
私はこの学院で、そんなありふれた高校生活を送っていた。
「はぁ……でもスミレさんはともかく、俺はもう今さら一般人には戻れないよ……」
「確かに。でもアイドル生活も慣れてきたんでしょ?」
「まぁ……もうどうにもならないしね……」
隣で溜め息を吐きながら弁当を食べているのは、アイドル科の二年・高峯翠。
彼が所属するのは新進気鋭のユニット『流星隊』。正義のヒーローを謳うユニットのはずだけど、高峯君はそんなのお構いなしと言わんばかりの無気力な性格をしている。出会った当初は彼のそんなところが逆に笑えて、一気に興味をそそられたのだった。
「本当は俺もスミレさんと同級生のはずだったのに……」
「普通科なんて本当にフツーだよ」
「それがいいんだよ……俺はもっと、平和に過ごしたい……」
がっくりと肩を落とす高峯君を隣で笑いながら「まぁまぁ」なんて肩を叩いて適当に励ましてあげる。
自分で言っててもそうだなと思うけど、夢ノ咲学院の普通科は本当に〝普通〟だ。
高校二年になる折に家族が引っ越すって言うものだから、どうせなら面白い学校に編入してやろうと思って共学化する夢ノ咲学院に転校してみた。
別に音楽にもプロデュースにも興味があるわけじゃなかったので普通科にしたけど、これが思ったより普通で――なんなら普通科が他の学科に食われ気味だから肩身が狭かったりなんかして、あー失敗したなぁなんて思ってたのだった。
唯一面白いことと言ったら、高峯君と仲良くなれたことだろうか。
彼とはひょんなことから仲良くなったけど、本当に面白い。
まず彼は学科を間違えて入学してきたらしい。私が『普通科二年』と自己紹介した日から事あるごとに羨ましがられる。もうすでに一年間『流星隊』として活動しているはずなのに……。
彼も〝普通の〟友達が欲しかったのか、割とすぐに打ち解けてくれた。
彼と仲良くなった今考えてみると、すぐ打ち解けてくれるなんて高峯君的には珍しいことのような気もするけど……裏を返せばアイドル科にはそれほど個性の強い人たちが集まっているということなのだろう。
「でも、スミレさんとお昼を食べてるときは俺もちょっと普通の男子高校生になった気分……♪」
「あはは、そりゃ良かった」
『アイドルの男の子と食べてる私は普通の女子高校生じゃないけどね』――なんて言葉がこぼれそうになったけど、頬張ってたパンと一緒に吞み込んだ。言えばきっと高峯君のご機嫌が斜めになっちゃうから。
「じゃあ俺、そろそろ行かなきゃ……」
「えっ、早いね今日は」
「うん……今日は流星隊で打ち合わせがあって……。もうそろそろ時間だから」
そう言って彼が立ち上がる。私の隣にぬっと彼の影が伸びた。
(――)
今まで並んで座っていたはずなのに、急に目線が合わなくなって、私は無意識に顔を上げる。
すらっとして、背の高い身体。細いと思っていたはずの腕。制服の上からでも分かる肩幅。目を奪われていると、彼の澄んだ瞳と目が合った。
「じゃあ、また……」
彼はいつも通りの、少し気の抜けた声でそう言って手を振った。
私達は別に毎回約束して会っているわけではない。お昼にいつもの場所になんとなく行って、どちらかがいれば一緒に食べるだけ。学校の外で遊ぶことも、今のところはない。
……それだけの関係のはずなのに、なぜか彼のことが頭から離れなくて、心の奥がざわつく。どうしてか分からなくて理由を考えるうち、「あっ」と声が漏れた。
(もしかしたら、高峯君のことが好き……とか?)
その可能性に至った瞬間、ぎゅ、と心臓が高鳴った。
いやいやいや。高峯君の顔も体も、何回も見てきたよね? 目が合っただけで、そんな……。
そもそも彼とは普通の友達だし。多分高峯君もお互い恋愛感情が無いからこそこうして気楽に会ってくれてるんだと思うし……。何より高峯君と話すのは楽しいから、せっかくできた友人を手放したくない。
(…………明日も来よう)
それまで食べてたパンの袋を片付けて立ち上がる。
まぁ、ちょっとした気の迷いだったんだろう。きっとそうだ。だって、高峯君は普通の友達だから……。
私は自分にそう言い聞かせながら、自分の教室へと戻った。木々の間を吹き抜ける風が、なんだか温かい気がした。
「同感……」
校舎裏に適当に腰かけ、友人と平凡で適当な会話をしながらコンビニで買った焼きそばパンを頬張る。
予鈴が鳴るまで適当に駄弁って、そのあとは適当に授業を受けて帰る。
私はこの学院で、そんなありふれた高校生活を送っていた。
「はぁ……でもスミレさんはともかく、俺はもう今さら一般人には戻れないよ……」
「確かに。でもアイドル生活も慣れてきたんでしょ?」
「まぁ……もうどうにもならないしね……」
隣で溜め息を吐きながら弁当を食べているのは、アイドル科の二年・高峯翠。
彼が所属するのは新進気鋭のユニット『流星隊』。正義のヒーローを謳うユニットのはずだけど、高峯君はそんなのお構いなしと言わんばかりの無気力な性格をしている。出会った当初は彼のそんなところが逆に笑えて、一気に興味をそそられたのだった。
「本当は俺もスミレさんと同級生のはずだったのに……」
「普通科なんて本当にフツーだよ」
「それがいいんだよ……俺はもっと、平和に過ごしたい……」
がっくりと肩を落とす高峯君を隣で笑いながら「まぁまぁ」なんて肩を叩いて適当に励ましてあげる。
自分で言っててもそうだなと思うけど、夢ノ咲学院の普通科は本当に〝普通〟だ。
高校二年になる折に家族が引っ越すって言うものだから、どうせなら面白い学校に編入してやろうと思って共学化する夢ノ咲学院に転校してみた。
別に音楽にもプロデュースにも興味があるわけじゃなかったので普通科にしたけど、これが思ったより普通で――なんなら普通科が他の学科に食われ気味だから肩身が狭かったりなんかして、あー失敗したなぁなんて思ってたのだった。
唯一面白いことと言ったら、高峯君と仲良くなれたことだろうか。
彼とはひょんなことから仲良くなったけど、本当に面白い。
まず彼は学科を間違えて入学してきたらしい。私が『普通科二年』と自己紹介した日から事あるごとに羨ましがられる。もうすでに一年間『流星隊』として活動しているはずなのに……。
彼も〝普通の〟友達が欲しかったのか、割とすぐに打ち解けてくれた。
彼と仲良くなった今考えてみると、すぐ打ち解けてくれるなんて高峯君的には珍しいことのような気もするけど……裏を返せばアイドル科にはそれほど個性の強い人たちが集まっているということなのだろう。
「でも、スミレさんとお昼を食べてるときは俺もちょっと普通の男子高校生になった気分……♪」
「あはは、そりゃ良かった」
『アイドルの男の子と食べてる私は普通の女子高校生じゃないけどね』――なんて言葉がこぼれそうになったけど、頬張ってたパンと一緒に吞み込んだ。言えばきっと高峯君のご機嫌が斜めになっちゃうから。
「じゃあ俺、そろそろ行かなきゃ……」
「えっ、早いね今日は」
「うん……今日は流星隊で打ち合わせがあって……。もうそろそろ時間だから」
そう言って彼が立ち上がる。私の隣にぬっと彼の影が伸びた。
(――)
今まで並んで座っていたはずなのに、急に目線が合わなくなって、私は無意識に顔を上げる。
すらっとして、背の高い身体。細いと思っていたはずの腕。制服の上からでも分かる肩幅。目を奪われていると、彼の澄んだ瞳と目が合った。
「じゃあ、また……」
彼はいつも通りの、少し気の抜けた声でそう言って手を振った。
私達は別に毎回約束して会っているわけではない。お昼にいつもの場所になんとなく行って、どちらかがいれば一緒に食べるだけ。学校の外で遊ぶことも、今のところはない。
……それだけの関係のはずなのに、なぜか彼のことが頭から離れなくて、心の奥がざわつく。どうしてか分からなくて理由を考えるうち、「あっ」と声が漏れた。
(もしかしたら、高峯君のことが好き……とか?)
その可能性に至った瞬間、ぎゅ、と心臓が高鳴った。
いやいやいや。高峯君の顔も体も、何回も見てきたよね? 目が合っただけで、そんな……。
そもそも彼とは普通の友達だし。多分高峯君もお互い恋愛感情が無いからこそこうして気楽に会ってくれてるんだと思うし……。何より高峯君と話すのは楽しいから、せっかくできた友人を手放したくない。
(…………明日も来よう)
それまで食べてたパンの袋を片付けて立ち上がる。
まぁ、ちょっとした気の迷いだったんだろう。きっとそうだ。だって、高峯君は普通の友達だから……。
私は自分にそう言い聞かせながら、自分の教室へと戻った。木々の間を吹き抜ける風が、なんだか温かい気がした。
2026/01/02